多くの武術家を震え上がらせた当代無比の伝説の達人
【多くの武術家を震え上がらせた当代無比の伝説の達人】
洋の東西を問わず、武術家の武勇伝というものには、なみいる強豪を次から次へとなぎ倒したとか、当代一の名手を一撃で打ちのめしたなどといった名前と場所を入れ替えれば誰にでも当てはまりそうな、少々、眉唾ものの類が多いものだ。
しかし、八極拳の伝説の達人、李書文にかぎっていえば、 その驚愕のエピソードをいくつも読み知るにつれ、しだいに戦慄をおぼえざるをえない。
それは、彼が一生涯をかけて練り上げたカンフーが、真に戦うことを目的としたものであり、そして人間を殺すことを目的としたものであったという事実を、いやおうなしに思い知らされるからにほかならない。
晩年の、李書文が、関門弟子(最後の弟子)の劉雲樵とともに、北京に出かけたときのことである。
李書文たちは、ある高名な武術家の自宅に招かれたが、そこで挑発を受け実際に立ち合うことになった。
しかし、李書文が牽制で軽く胸を突くと、その武術家はバッタリと倒れて動かなくなってしまった。
「おい、どうした、これからが極め技だ。起こしてやれ」
そう李書文が言うので、劉雲樵は武術家を助け起こしたが、すでにその男は絶命していた。
劉雲樵がのちに述懐した実話である。