全日本少林寺流空手道連盟 錬心舘 鹿屋南地区本部 鹿屋東部支部

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小説「公相君」①

http://blogs.yahoo.co.jp/alphabethankakueisuji/folder/1182953.html

より引用

 

【正冊封使・全魁は満州人と”断定”されています。大島筆記に書かれた公相君は正冊封使・全魁であり、組合術とは内モンゴル相撲であると”類推”されます。これは、それを元に類推したフィクションです。】

 

全魁はどうしようか迷っていた。

 

「表演といわれても……」

 

琉球王国の役人たちが、冷めた目で見ている。

 

「あいつだろ?魚が見たいってわざわざ探させて、これじゃないって言ったの」

「探すの大変だったらしいな。振り回される身にもなれよなぁ」

「それに、あいつ、こっちから書を書いてくれって言っても、自分で書かないんだぜ」

「なんでよ?」

「あの隣にいる従客に書かせて、自分の落款押すだけなんだぜ」

「はぁ~?字書けないんじゃねぇの?」

 

後に、探花という好成績で科挙に合格する王文治が従客として随行していた。

彼は詩歌や書の才能があり、若くして天才の名を欲しいままにしていた。

正冊封使である全魁も求めに応じて詩歌を読んではみたが、

内蒙古出身の満州族ゆえに漢詩や漢語での書は得意とは言えず、

王文治のそれとは比較にならなかった。

書を求められるときにも、いきおい王文治の代筆が増えていった。

 

それに、魚の一件も

「清と同じ呼び名の魚がいるのなら観てみたいものだ」と言っただけで、

全魁に非はなかったが、役人達の反感を受ける原因となってしまった。

 

しかし、その嘲笑は琉球の役人だけではなかった。

自分を補佐する立場である副冊封使の周煌の口元にもそれを感じていた。

 

王文治を連れてきたのは周煌だった。

 

周煌にとっては、外交で失敗したくなかった気持ちから、

王文治という優秀な人材を登用しただけだろうが、

それが関係を悪化させることは明白だった。

 

全魁を公相君と呼び始めたのも周煌だ。

「侍講という立場なのだから、あなたは皇帝の先生。つまり公相の君だ」と。

侍講なんて、ただの名誉職。

付庸国であっても相手国の天子に失礼にならないように、

偉い人間が遣わされたという体裁をとっただけ。

清の皇帝に教えたこともない。

それでも周煌は護衛の兵丁たちにも全魁を公相君と呼ぶように強要したのだった。

 

清朝は満州族が打ち立てた国。

結果的に被支配層となった漢族との間で微妙な関係が出来上がっていた。

 

そして、今、公衆の面前で恥をかかそうとしている。

昔の冊封使が求めに応じて拳法を披露したことを聞き及んで、

わざわざこの全魁にもそれをさせようとしていたのだ。

 

全魁が拳法を修行していれば何のことはないが、

やっていたのは布庫(ブフ)。所謂、モンゴル相撲だ。

ブフには套路(型)は無い。

単独の演武を求められても、見せるものがないのだ。

 

これ以上、求めを無碍に断るわけにもいかず、困り果てていたのだった。

額から汗が流れる全魁。

 

「どうしよう……套路かぁ……套路ってどうやるんだ?」

拳法の套路がどんなものだったか頭を巡らせる全魁。

「そうだ!まずは起式だ。套路には起式が必要だ……起式…起式……」

ふと頭に浮かんだのは、聞き見知りしていた日本の相撲。

「確か日本の相撲には、私は手に何も持ってませんよと掌をかざす起式があったなぁ……

ここは、敬意を表して…………」

両手で輪を作り、その間から空を仰ぎ観て、パチン!と手を合わせて、

うろおぼえの塵手水をしてみる。

 

「起式は良いとして、次はどうする……単演できるもの、単演できるもの……」

 

崴桩をしてみる。

柔道の体落としをかけるような体重移動を繰り返す動きだ。

しかし、単なる基本功にすぎない。

 

「これを続けていても埒があかん……どうしよう」

 

自分の戸惑いを琉球の役人たちに感じさせたくなかった全魁は、

思わず後ろを振り返って背を向けてしまった。

そこには、周煌が嘲笑を浮かべて立っていた。

 

「くそっ!」

 

それを観た全魁は怒りがこみ上げた。

 

「俺の得意技見せてやる!」

 

相手の袖を掴んで横を向いた相手の足を後部から蹴り上げる技「ソーラガジ・チョヒホ」で、わざと砂煙を上げる全魁。

砂が懸りそうになった周煌は顔を背ける。

 

全魁は正面を振り返って、「セールジ・ホシガホ」を繰り返す。

奥襟を引っ掛けて首根っこを押さえて捻り投げる動作だ。

セージル・ホシガホを続けたら、

観衆である琉球の若い役人達に近づいてしまった。

彼らの目は冷めている。

さすがに、これはもたないと感じた全魁は、

「套路、套路は……

そうだ、元の位置に戻ってこそ套路だ!」

全魁は、クルッと振り返る。

相手の両腕を持って背負い投げる技や、

「ウブドゥッグ・オノーラホ」という相撲の櫓投げに似た反り投げで大きな跳躍を見せた。

それからは自然に技が出てきた。

跳び蹴りのように足払いを2度連続で掛ける派手な動きを織り交ぜて、

元の位置に戻ってくる套路を完成させたのだった。

 

無事に単演を終わらせた全魁は満足げだったが、今ひとつウケがよくない。

社交辞令的な拍手がチラホラ。

やはり、単演では意味が分らないのか。

 

そこで、全魁はいまの套路の意味を説明するべく、兵丁のひとりを目の前に立たせた。

相撲のように組み、ソーラガジ・チョヒホで大きく投げ飛ばす。

しっかり袖を掴んで頭から落ちないように投げていたものの、

足を思いっきり蹴り上げた。

どっと歓声が沸く。

周煌への不満をぶつけているのは、冊封使団の誰の目から見ても明らかだった。

大柄の兵丁はバンバン投げ捨てられる。

琉球の役人達の歓声とともに全魁の蹴りも熱を帯びてきた。

怒りの矛先が自分たちに向かい始めたと感じた兵丁たちは、王文治に助けを求める。

 

王文治は一計を案じて、馬を用意させた。

「公相君は馬も得意でございます!」

 

その声に我に返り、

投げ飛ばすのをやめた全魁は、王文治の提案通り、馬を乗って見せた。

 

内蒙古の草原を馬に乗って走り回っていた全魁にとっては、

慣れない地であっても馬を乗りこなすのはお手の物。

それがどんなにむずかしいことかを知る士族達は感嘆の声を漏らす。

若い琉球士族にとっては、詩歌や書よりも、全魁の投げ技や馬術が魅力的だった。

演武を終わらせた全魁に弟子入りを求める者も出てきたほどだ。

 

王文治が周煌に目をやると、

周煌は決して表情を変えることはなかったが、

かえって感情を表さないように努めていたようにも思えた。

 

その夜、全魁は1人で海を見つめながら冷静に考えた。

 

「よくよく考えれば、周煌の怒りの矛先が自分に向くのも当然だろう。

この渡琉で嵐に遭い、冊封使団を漂流という危険に晒させた責任は、正冊封使である自分にある。

副冊封使という立場にある周煌にとっては、出世の妨げになる大きな汚点だ。

仕方あるまい……」

 

手で輪っかを作り、月夜を仰ぎ観て、ため息をつく全魁であった。

 

(終わり)

 

<追記>

これは、完全なフィクションです。

大島筆記から読み取れる話をふくらませていますが、

小説という性格上、

ドラマ性を求めて周煌を悪者にしました。

しかし、それを裏付けるようなエピソードはありません。

また、王文治のような従客を付けるのは、

かなりの数の書を求められる冊封使には普通のことで、

現在で言えば、外務大臣と事務方と言う役割であっただけでしょうから、

あまり、真には受けないでください。

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